2022-01-01から1年間の記事一覧
JR香芝駅に列車がはいっていく。 踏切のバーがあがり、わたしは瓦屋根のちいさな駅舎のほうに歩みをすすめた。 やれやれ、こんな風に時間を潰すことになるとは。 今日が4回目のワクチン接種だった。 いったいいつまで続くのだろう、という徒労感にもまして、…
東寺のアオサギ、と聞いてピンとくるヒトが世間にいくらもいるとは思えない。 しかしわたしのまわりには「ああ、あいつね」と言って目じりをさげるヒトが何人もいる。そのことはちょっとした驚きだった。「へえ、おまえも気になってたんだ」 こうして自宅に…
山あいの、片側一車線の曲がりくねった国道を東に向かってはしっていた。並走するように流れている清流・板井原川の川面が、ときおりきらきらとひかっていた。 さきほど、突然山中にあらわれた巨大な緑色の鬼の像のことを思い返していた。それはまるでニュー…
いまも古都の面影を色濃くのこす奈良市内にたいして、ずっと南の御所市までくだってくると、山々に囲まれた土地のあちらこちらに、唐突に緑濃い小山があらわれて、あれは古墳なのだろうか、それとも鎮守の杜かしら、などと想像を巡らせるとココロが踊る。 グ…
となりのトトロが好きだ。 メイとサツキはお父さんに連れられて田舎の一軒家に引っ越してくる。そこには「まっくろくろすけ」というまりものようなススのお化けが住みついていて、空き家を好むかれらは一家がやってくると、その夜、次の居場所をもとめて空へ…
よく晴れた日だった。 道路の見通しはよく、行き交うクルマもすくなかったが、けっしてとばしたりはしなかった。 速度を50キロにあわせることに集中する。スピードメーターとにらめっこだ。 突然、路面からの細かな突き上げを感じ、大きな音が響きわたる。雪…
路面電車が大好きなのは、おそらくその開放的な様子に惹かれるからだと思う。 二両編成の列車がコトコトとはしる…。地下にもぐったり、高架のうえを猛スピードで行き過ぎることはなく、いつもわたしたちとおなじ目線で街なかをめぐる。さらに駅舎にいたって…
「護国神社ってのは年々参拝者が減少しているんだろうねえ。なにしろ戦争遺族の数はどんどん少なくなっているわけだからさ」 新なにわ筋と住之江通がまじわる住之江公園前交差点にかかる、少々古ぼけた歩道橋のうえで旧友は言った。むかしの職場の同僚だ。こ…
敏達天皇はその在位中、まさに難問山積だった。 外にあっては任那再興をはかるがおもうにまかせず、国内では崇仏・廃仏の争いが大きくなっていった。 585年、崩御のあと、母、石姫皇女の墓であるこの磯長 (科長・しなが) の陵に追葬された。 生前、物部守屋…
笠置山登山道の急な坂道をクルマはのぼっていった…。 ここをはじめて訪れたのは17歳のときだった。そのときは歩いてここをのぼっていったのだ。もし、いまおなじことをしたなら、さぞや苦行と感じることだろう。 当時のわたしは、JR奈良駅 (あるいは当時はま…
水占い、というものが全国あちこちの神社仏閣に存在する。 試されたかたもおられよう。 授与所で拝受した用紙を境内の池や沢に浮かべる。あるいは流れ落ちる清水をかける。 するとそこに神託の文字が浮かびあがってくる。 おみくじの一種ともいえるわけだが…
月が替わり八月になった。 夏も盛りというわけで、この暑さも当然なのかもしれない。 しかし、夕方4時すぎ、クルマの車外温度計が36度をしめしているのは、いくらなんでもやりすぎだと感じていた。 我慢の限界をこえていた…。 運転中ずっと理不尽だ、無茶…
あるとき、雄略天皇が葛城山に多くのお供の官人を従えて登られていたところ、向こうの尾根を行くヒトたちがいた。それが天皇の行列と人数も装束もまことに似通っていた。 天皇はお尋ねになられた。 「この国に、わたしのほかに王はいない。あなたは誰か」 す…
香久山、耳成山、畝傍山…。大和三山の中でも、古よりしばしば「天の」と尊称を冠して呼びあらわされ、一等神聖視されてきたのが香久山だ。 天照大御神の天岩屋戸神話、神武東征のさい香久山の埴土 (はにつち) で祭器をつくり、天神地祇 (あまつかみくにつか…
昨日7月8日、午前11時半ごろ、奈良市の近鉄西大寺駅前で、安倍晋三元首相が銃撃された。心肺停止状態で奈良県立医科大学附属病院に搬送されたが、同日午後5時3分、死亡が確認された。 想像だにできない蛮行だ。 各党は直ちに声明を発表した。 いわく……、 「…
子供のころの七夕の記憶といっても、なにやら願い事を書いた短冊を笹竹に結びつけたかな、といった非常にぼんやりとしたものでしかない。 五節句のひとつとはいえ、大人になってからはすっかり意識のすみに追いやられて、織姫と彦星の名前を口にすることもな…
おなじ山頂を目指すにしても、そこにいたる登山ルートは幾通りも存在する。 よく整備され、舗装の行き届いたおだやかなルート。山中行軍とでも嘆きたくなるような急勾配のみち。そして文字通りのけもの道…。北から、南から、西からと起点を違えたさまざまな…
休日の朝、庭先の白い花が芳香を放つ。 その花をつけた木は、玄関からガレージにむかうあいだにある。大豪邸ではあるまいにほんのわずかな距離、前日も、前々日も、毎日そのよこを通っていたのに、気づいてやれなかった。 元々、そこには背の高いハナミズキ…
近鉄南大阪線・上ノ太子駅と次の二上山駅のあいだは、わずか5キロあまり。その短い距離のあいだに、じつは戦前まで、もうひとつ駅があったとつい最近になって知って、たいへん驚いたものだ。どこにあったにせよ、それは山深いところにポツンと駅があったこと…
「近つ飛鳥博物館」「道の駅 近つ飛鳥の里・太子」「飛鳥ワイン」「飛鳥橋」…。 遠方から大阪府太子町周辺にはじめて来たヒトのなかには、首をかしげるむきもおられるだろう。 ねえ、飛鳥って奈良じゃなかったかな、飛鳥ナンバーのクルマって奈良だよね、と…
二上山 (にじょうざん・ふたかみやま) は雄岳 (標高 517メートル)、雌岳 (標高 474メートル)の二つの峰を持つ双耳峰である。 先週の休日、わたしは長いあいだ、その山を奈良県香芝市の千股池のほとりから眺めていた。 暑かった。 まだ五月だというのに、天気…
禁煙をしようと思った。 きのうの午前9時、最後の一本に火をつけると「さあ、やりますか!」 わたしは禁煙について語らせれば、日本でも屈指の存在かもしれない。なにしろ過去に百回以上はチャレンジしてきた。 まず家を出るとき、安易にタバコを購入できな…
我が家の廊下の板には、傷んでいるところが一か所ある。階段のしたあたり。そこを歩くと、かすかにキュッと音をたてる。 この五年来、わたしは帰宅してリビングに向かうとき、いつもわざわざその板を踏む。…ただいま。 ドーン! テレビを見ていると、廊下で…
7日前、葛城坐火雷神社 (かつらぎにいますほのいかづちじんじゃ) に参拝した時のようすをしるしたブログを投稿した。そこがいまや鬼滅の刃の聖地と目されていて、多くの若者たちが訪れていること。火雷大神 (ほのいかづちのおおかみ) と天香山命 (あめのか…
赤面確実とは、こういうことを言うのだろう。 二上山と葛城山の山麓を南北にはしる県道30号線 (御所・香芝線、通称山麓線)の周辺には、葛城坐一言主神社、高鴨神社、高天彦神社などの名だたる古社をはじめ、多くの古墳が点在している。また、そこからは奈良…
冬の持田神社は美しい。ソフトビジネスパークから西にのびる農免農道でクルマをとめて、うっすらと雪をかぶったその姿を初めて見たとき、わたしは身じろぎもせず、しばらくの間、見入っていた。鳥居がまるで神域への入り口のように、ぽっかりと口を開けてい…
琴の音を最後に生で聞いたのは、もう半世紀近く前のことになろうか。 親戚の家で、いとこの女の子たちが、ハレの日にはよく座敷で琴を弾いていたものだ。そう、女の子…。趣味のいい調度品、高価な掛け軸、手入れの行き届いた中庭。琴というと、いまでは和服…
休日の午後、ぽっかりと時間があいた。 スーパーの買い出しからもどってきたのが正午過ぎ、歯医者の予約は夕方の6時だった。歯医者にはもう1年も通っているが、まだまだ終わりそうにない。 すべては、このウイルス騒ぎのせいだ。 前歯が抜けた。これまでなら…
家を出て、川沿いの桜並木を眺めながらのんびりと歩いてみた。 そこにいたるわずか10分ほどの間にも、途中にタバコ休憩をはさむ。 なにも急ぐことはない。それに、わたしにとって気負いなく出かけられるのは、いまはまだこの辺りくらいなものだ。 雑踏にまぎ…
春の夜(よ)におぼろに浮かぶ三日月のようだ、美保の港は。 大国主命が少彦名命と出会った御大之御前(ミホノミサキ・美保の岬)とは、いずれここから遠くはないのだろう。 植物でできた船に乗り、剥いだ鳥の皮をかぶった小さな神様…。名を問われても答えること…