旅行
7月の京都は、祇園祭一色になる。 連日のように祭りの様子が話題になり、なかでもその前祭 (さきまつり) 後祭 (あとまつり) のクライマックスとも目される山鉾巡行の当日は、多くのヒトたちがまちに繰り出し、浴衣姿の人波がゆっくりと押し寄せるなか、市街…
山あいの、片側一車線の曲がりくねった国道を東に向かってはしっていた。並走するように流れている清流・板井原川の川面が、ときおりきらきらとひかっていた。 さきほど、突然山中にあらわれた巨大な緑色の鬼の像のことを思い返していた。それはまるでニュー…
よく晴れた日だった。 道路の見通しはよく、行き交うクルマもすくなかったが、けっしてとばしたりはしなかった。 速度を50キロにあわせることに集中する。スピードメーターとにらめっこだ。 突然、路面からの細かな突き上げを感じ、大きな音が響きわたる。雪…
香久山、耳成山、畝傍山…。大和三山の中でも、古よりしばしば「天の」と尊称を冠して呼びあらわされ、一等神聖視されてきたのが香久山だ。 天照大御神の天岩屋戸神話、神武東征のさい香久山の埴土 (はにつち) で祭器をつくり、天神地祇 (あまつかみくにつか…
我が家の廊下の板には、傷んでいるところが一か所ある。階段のしたあたり。そこを歩くと、かすかにキュッと音をたてる。 この五年来、わたしは帰宅してリビングに向かうとき、いつもわざわざその板を踏む。…ただいま。 ドーン! テレビを見ていると、廊下で…
琴の音を最後に生で聞いたのは、もう半世紀近く前のことになろうか。 親戚の家で、いとこの女の子たちが、ハレの日にはよく座敷で琴を弾いていたものだ。そう、女の子…。趣味のいい調度品、高価な掛け軸、手入れの行き届いた中庭。琴というと、いまでは和服…
日御碕神社を染めるもの 出雲大社からくるまで15分あまり、県道29号を北に進むと朱色に塗られた見事な権現造の日御碕神社(ひのみさきじんじゃ)に至る。現在の社殿は三代将軍、徳川家光の命により日光東照宮の…、 「いやあ、立派ですなあ。だいだい色、きれ…
大社町で神賀詞についての講演会が開かれると聞きつけて、それならたとえ末席でもいいから、是非とも話を聞いてみたいと思った。今となっては変な話だ。でもその時は、もう居ても立っても居られなくなって、急いで家を飛び出したんだ。本当の話だ。 うそでは…
丹生川上神社(中社) 去年に続いて、ことしも初詣のいきさきには、ちょっとした思慮が必要だった。このウイルス騒ぎのせいだ。一の宮や総社は人出のことを考えると、どうしても足を運ぶのを躊躇してしまう。さて、どこに行こうか。大寒波を裂いてクルマをはし…
やれやれの、車中泊 阿東(あとう)までにしか進めなかった。 本当なら、日の高いうちに島根県との県境をこえ、津和野に至っていたはずなのに…。こんな風になるのは、しょっちゅうだ。余裕をもって出発しても、途中であれやこれやと目移りする。あっちへふらふ…
日本海軍発祥の地 名高い神武東征の御船出の地は、いまの宮崎県美々津からだと伝えられている。 初代天皇神武(イワレヒコ)は途中、宇佐などに立ち寄りながら瀬戸内海を東進、生駒山を越えて大和入りを目指すもナガスネヒコと衝突して敗走。再び海路、紀伊半…
森の奥深くに 「あった!」 薄暗い森のなか、わたしは満面の笑顔で声をあげた。思わず指さした先にある建物が、予想にたがわず、小さくて華奢だったからだ。それはまるで、絵本にでてくる魔法使いの老婆が住んでいる小屋のように、静かにたたずんでいた。ほ…