【畝傍山】眼福地蔵の慈愛があふれる。懿徳天皇陵を過ぎて

畝傍山。神武天皇陵と橿原神宮を山麓にいだき、この国の始源のすがたを可視化した聖なるお山は、荘厳神聖な山容で大和盆地に屹立している。 しかし、いまわたしたちが眺める畝傍山の樹相は、明治期以降に、往古の神々しさを取り戻す、などとした声の末に、ヒ…

【八幡神社 (八井神社) 】神武天皇の皇子、神八井耳命の墳墓伝承地

神武天皇の皇子、神八井耳命 (かむやいみみのみこと) は第二代・綏靖天皇の兄御子で、多氏の祖とされている。 日本書紀は畝傍山の北に葬られたと記す。 かつて八井神社と称されていたとされる八幡神社 (橿原市山本町) の本殿がたつ、盛り土状の小丘が、その…

【出雲大社】縁結びの神様に素敵なご縁を頂戴したはなし

みんなが良き縁 (えにし) をもとめている。 自分自身、あるいは家族の誰かがすてきな縁を結びますようにと。 縁結びの御利益をもとめて、大勢の参拝者があしをはこぶ出雲大社は、国譲りに際して大国主神が幽世にお隠れになるために建てられた天日隅宮 (あめ…

【丸山宮址】もうひとつの神武天皇陵、畝傍山山麓に眠る丸山を行く

幕末の文久年間に、現在の四条ミサンザイが神武天皇陵と治定される際には、そこからすこし離れた畝傍山の尾根のうえにある、墳丘状の丸山と呼ばれていた場所も有力な候補地だった。 遠く歴史の向こうに置いてこられたまま、いまでは顧みられることさえまれな…

神武天皇陵、橿原神宮にみる建国神話の可視化過程について

大和三山のひとつ、畝傍山は古来より幾たびもうたによまれ、また祈りの対象ともなってきた。いま、その優美な山容を眺めるとき、思わず静かに手をあわせたくなるのも至極当然のことなのかもしれない。 山麓にひろがる橿原神宮の杜に、初代・神武天皇陵、第二…

変遷する玉手山公園―西日本初の遊園地から地域の憩いの場へ―

玉手山遊園地…。なんと懐かしい響きだろう。 1,908年 (明治41年) に西日本初の遊園地として開園され、昭和30年代の最盛期には、年間数万人の来園者をかぞえ大変な賑わいをみせていたこの遊園地も、しかし、その後は少子化などの影響から徐々に来園者数が減少…

【高井田横穴公園】古墳を頂く史跡公園の魅力を解説。駐車場、アクセス情報も

大阪府柏原市にある高井田横穴公園は、6世紀中ごろから7世紀前半にかけて築造された高井田横穴群を史跡公園として整備し、平成4年 (1992年) 5月に開園された。 現在までに確認されている横穴は162基。 そのうちの27基から線刻壁画が発見されている。 しかし…

【高井田横穴群】横穴墓を築造したのはどのような集団だったのか。彼らの死生観とは。

高井田横穴群の存在をはじめて知ったときの、あの高揚した気持ちを、言葉で表現することはむずかしい。 高井田山は標高わずか65メートル。その丘と呼びたくなるような小さな山に、6世紀中ごろから掘られ始めた横穴墓が、いまもたくさん残っているという。 …

【相撲の神様】不本見神社のヤーホ様に会いに行ったのに会えなかったはなし

大阪府千早赤阪村の不本見神社 (ふもとみじんじゃ) 周辺には不思議な話が伝わる。 むかし、子供たちが不本見山で相撲をとっていたところ、樹々のうえのほうから「ヤーホ、ヤーホ」と声がした。見上げるが誰もいない。ただ風が吹くばかり。そしてどこからか笑…

【壷阪寺】眼病封じの御利益、壺坂霊験記の夫婦愛をいまに伝える

奈良県のほぼ中央に位置する高取町を象徴するものとはなにだろう。 「くすりの町 高取」 日本書紀・推古天皇の段にみられるように、古くからこのあたりでは薬猟 (くすりがり・鹿の角や薬草を集めること) がおこなわれていた。土佐街道 (飛鳥時代に土佐高知か…

【祇園祭】前祭、後祭。あなたは今年もただ山鉾巡行を眺めていただけ?

7月の京都は、祇園祭一色になる。 連日のように祭りの様子が話題になり、なかでもその前祭 (さきまつり) 後祭 (あとまつり) のクライマックスとも目される山鉾巡行の当日は、多くのヒトたちがまちに繰り出し、浴衣姿の人波がゆっくりと押し寄せるなか、市街…

【等乃伎神社】古事記にしるされた古代巨樹祭祀の残像を求めて

失われた古代祭祀の全容を知ることは容易ではない。 周知のように銅鐸などはなんらかの祭祀につかわれていたのでは、と考えられているが、それについての詳細な記述は、記紀のような古典においても見ることができない。ただ土の中に埋められて、語られること…

【信太の森】葛の葉姫伝承をうんだ悠久の森を行く。聖神社を中心に

関西地方に住まうものにはとくによく知られているように、信太の森 (しのだのもり) は大阪府和泉市にひろがる、古来よりいまに至るまでつづく悠久の森だ。 「森は信太の森」と清少納言が枕草子において称えたそこにも、しかし近年においては開発の波が押し寄…

【京都市上京区】晴明神社 ~五芒星、清明井、一条戻り橋を越えて~

京都の晴明神社というと、なにやら魑魅魍魎の跋扈するといったイメージを抱くヒトもおられるのだろうか。曰く、陰陽師、安倍晴明公、式神…。 しかし、それらは人気の歌舞伎や映画などの創作の世界にに引きずられたものだ。 実際の晴明神社の坐すのは、京都御…

【大阪市阿倍野区】安倍晴明神社。清明公御生誕伝承の地で葛の葉姫に出会う

平安時代の陰陽師 (おんみょうじ)、天文博士、 安倍晴明公の人気は、現代にいたり世上ますます高まっているように思われる。幾たびも小説や映画に取り上げられ、先日 (2023・4・2~2023・4・27) も、東京銀座の歌舞伎座において、市川猿之助、脚本・演出の『…

【相撲の歴史】国譲り神話にみるその起源から現代に残る奉納相撲の跡まで

相撲の起源はいつどこに求めればよいのだろう。 向きあった力士どうしが呼吸を合わせ、両手を土俵につけるや、立ち合いの一瞬、バシンッ、と凄まじい音を立ててぶつかりあう二つの巨きなからだ。隆起する二の腕の筋肉、四つの足が土俵にめり込まんばかりにな…

行ってよかった 葛城市相撲館「けはや座」 大相撲春場所開催によせて

我が国最古の天覧相撲の記録は、日本書紀によると、第11代垂仁天皇の御前での大和の當麻蹶速 (たいまのけはや) と出雲の野見宿禰 (のみのすくね) のとりくみとなる。 もっともこの時代の捔力 (すまひ)、現代の角力 (すもう) とは少々異なっている。 なにしろ…

【奈良県葛城市】當麻寺の門前で中将姫の夢をみる

先月のこと。 二月といえば寒気もさかりで、わたしなど、ついつい猫背になってポケットに手をいれて、うつむき加減で過ごしがちだった。 そんななかにあって、うれしいのは日照時間が日に日にながくなってきているのを実感できることだ。日没時間が遅くなっ…

因幡の白兎伝承をめぐって。古事記神話、白兎神社、亀井玆矩公の視点から

古事記にあって、もっともよく知られひろく親しまれているのは、因幡の白兎 (稲葉之素菟) のくだりに違いない。 淤岐島から今まさに気多の前に渡り終えようとしたときに、兎は鰐を怒らせてしまい毛皮を剝がれてしまう。そこに八上比賣 (八神姫) に求婚するた…

【奈良県東吉野村】天誅組終焉の地、烈士の熱き誠のあとを訪ねて

天誅組の変に対する世間の評価は、令和のいまとなっても定まっているとは言い難い。 おなじ江戸時代の大塩平八郎の乱などには、われわれは散りゆく美学のようなものをそこに見る。 しかし40日にわたって大和国を転戦した天誅組にたいしては、そのような視線…

【奈良県香芝市】鹿島神社、武甕槌大神をまつる社。下田界隈を散策して

JR香芝駅に列車がはいっていく。 踏切のバーがあがり、わたしは瓦屋根のちいさな駅舎のほうに歩みをすすめた。 やれやれ、こんな風に時間を潰すことになるとは。 今日が4回目のワクチン接種だった。 いったいいつまで続くのだろう、という徒労感にもまして、…

【京都市南区】東寺 (教王護国寺) のアオサギ、真言密教の教えを体現するもの

東寺のアオサギ、と聞いてピンとくるヒトが世間にいくらもいるとは思えない。 しかしわたしのまわりには「ああ、あいつね」と言って目じりをさげるヒトが何人もいる。そのことはちょっとした驚きだった。「へえ、おまえも気になってたんだ」 こうして自宅に…

【鳥取県日野町】金持神社、金運招福の社を回想して。

山あいの、片側一車線の曲がりくねった国道を東に向かってはしっていた。並走するように流れている清流・板井原川の川面が、ときおりきらきらとひかっていた。 さきほど、突然山中にあらわれた巨大な緑色の鬼の像のことを思い返していた。それはまるでニュー…

【奈良県橿原市】丸山古墳、奈良県内最大の前方後円墳、認知度が低いたった一つの理由とは。月が昇っていた…。

いまも古都の面影を色濃くのこす奈良市内にたいして、ずっと南の御所市までくだってくると、山々に囲まれた土地のあちらこちらに、唐突に緑濃い小山があらわれて、あれは古墳なのだろうか、それとも鎮守の杜かしら、などと想像を巡らせるとココロが踊る。 グ…

【大阪市住吉区】止止呂支比賣命神社、そうだトトロに会いに行こう!

となりのトトロが好きだ。 メイとサツキはお父さんに連れられて田舎の一軒家に引っ越してくる。そこには「まっくろくろすけ」というまりものようなススのお化けが住みついていて、空き家を好むかれらは一家がやってくると、その夜、次の居場所をもとめて空へ…

【鳥取県米子市】粟島神社 。 静の岩屋、八百比丘尼の眠る洞 (あな)

よく晴れた日だった。 道路の見通しはよく、行き交うクルマもすくなかったが、けっしてとばしたりはしなかった。 速度を50キロにあわせることに集中する。スピードメーターとにらめっこだ。 突然、路面からの細かな突き上げを感じ、大きな音が響きわたる。雪…

【大阪府堺市】ザビエル公園に停泊中の帆船で大海原を見た

路面電車が大好きなのは、おそらくその開放的な様子に惹かれるからだと思う。 二両編成の列車がコトコトとはしる…。地下にもぐったり、高架のうえを猛スピードで行き過ぎることはなく、いつもわたしたちとおなじ目線で街なかをめぐる。さらに駅舎にいたって…

【大阪市住之江区】大阪護国神社、桜の舞い散る頃に

「護国神社ってのは年々参拝者が減少しているんだろうねえ。なにしろ戦争遺族の数はどんどん少なくなっているわけだからさ」 新なにわ筋と住之江通がまじわる住之江公園前交差点にかかる、少々古ぼけた歩道橋のうえで旧友は言った。むかしの職場の同僚だ。こ…

【大阪府太子町】敏達天皇陵、見上げる空から慈愛の声がきこえるところ

敏達天皇はその在位中、まさに難問山積だった。 外にあっては任那再興をはかるがおもうにまかせず、国内では崇仏・廃仏の争いが大きくなっていった。 585年、崩御のあと、母、石姫皇女の墓であるこの磯長 (科長・しなが) の陵に追葬された。 生前、物部守屋…

【笠置寺】浄土を頂くやすらぎの里・笠置を繰り返し訪れるこれだけの理由

笠置山登山道の急な坂道をクルマはのぼっていった…。 ここをはじめて訪れたのは17歳のときだった。そのときは歩いてここをのぼっていったのだ。もし、いまおなじことをしたなら、さぞや苦行と感じることだろう。 当時のわたしは、JR奈良駅 (あるいは当時はま…