【京都府笠置町】浄土を頂くやすらぎの里・笠置を繰り返し訪れるこれだけの理由

笠置山登山道の急な坂道をクルマはのぼっていった…。

ここをはじめて訪れたのは17歳のときだった。そのときは歩いてここをのぼっていったのだ。もし、いまおなじことをしたなら、さぞや苦行と感じることだろう。

当時のわたしは、JR奈良駅 (あるいは当時はまだ国鉄 奈良駅だったろうか) のホームで、さてつぎはどの路線に乗り換えようかと思案中だった。売店の新聞はどれも、ジョンレノンが射殺されたのだと知らせていた。

結局、あてもなくとまっていた列車に飛び乗り、笠置駅でおりると、あっという間に笠置山を登りきり、笠置寺の山門をくぐっていた。

進んでいくと、見上げるような巨岩があちらこちらにある。

わたしはせまい岩と岩のあいだをくぐりぬけ、いちばんはしにある岩によじ登って腰をおろした。

いましがた、自分が乗ってきた関西本線の列車がマッチ箱のように小さく見えていた。

木津川沿いの国道に、ときおりクルマがはしる以外、移動するものとてなかった。

そんな静止画像のような風景を見続けているうちに、はて、自分は何を悩んで家を飛び出したのか、さっぱり思い出せなくなっていた…。

きじ料理はいかがでしょうか

以来、毎年のように笠置を訪れるようになった。

それがここ数年のウイルス騒ぎのせいで、外出がはばかられるようになり、気がつくとずいぶんあしが遠のいてしまっていた。

しかし笠置に行こう。

この一年、とくにその思いはつのっていった。

笠置に行こう!

わたしは駐車場にクルマをとめると、徒歩で山頂を目指した。

すでに日は暮れかけていた。

ようやく山頂にたどりついた。いよいよ最後の石段をのぼっていく。が、笠置寺の山門はしまっていた。

夕方6時過ぎ。無理もなかった。

わたしはいま来た道を引き返していった。

山門からすぐのところに、松本亭という料理旅館があった。

まだ灯りがついていた。

きじ料理の看板が見えた。

浄土を頂くところ

山中のいたるところ、巨岩が露出する笠置山京都府南部、木津川のほとりに位置する標高300メートルに満たないちいさな山だ。

古代より巨石崇拝、磐座信仰が執り行われていたとされ、それはやがて仏教や修験道へと移行していく。

高さ15メートルの巨石に彫られた笠置寺の御本尊、弥勒摩崖仏はしかし、光背 (御仏のお姿の外枠) を残すのみとなっている。

後醍醐天皇鎌倉幕府とのあいだで緊張の高まるなか、天皇は京の御所を脱出し笠置山を行宮 (あんぐう・かりみや) とさだめられ、幕府軍と激突。この元弘の乱の戦火で笠置寺は炎上。その炎は御本尊へも迫って、その熱で石の表面が剥離した。ほかの多くの摩崖仏も同様に焼かれてしまい、現在、往時のすがたをとどめているのは唯一、虚空蔵菩薩像のみとなる。

山頂の後醍醐天皇行在所跡も碑が立ち、柵を巡らせているばかりで、建物等は現存していない。

その先にある巨岩がいくつも折り重なっているところ、わたしが初めて訪れた際に腰を下ろしたところあたりが、修験道の行場になろうか。

歴史を重ね、苦難にも耐えていまにつづく笠置山。この信仰の山は、春は桜、秋は紅葉とその山容を息をのむほどに美しく染め上げる。

ここが浄土でなくて、なんとするのだろうか…。

天然温泉・笠置いこいの館

クルマにもどったわたしは意気消沈して山をくだっていった…、わけではなかった。

笠置のたのしみは、麓にもたくさんある。

木津川のほとりにはキャンプ場が整備され、また、最近ではボルタリングの聖地としても名を上げている。

しかし、日が暮れてからのソロキャンプはありえなかった。(明日はしごとだ) それにボルタリングはご免こうむりたいところだった。つい先日、二上山で思いがけなく岩登りをする羽目になってしまったばかりだった。

 

tabinagara.jp

ずばり、温泉だ。

天然温泉・笠置いこいの館の湯は、その独特のぬめり感がすばらしい。しかしそれにもまして声を大にして言わなければならないのはサウナ施設だ。

わたしは自分のことをサウナ愛好家だと自負してきた。

しかしこのウイルス騒ぎがおきて以降、すっかりあしが遠のいていた。

その間、サウナを取り巻く環境は様変わりしていた。

サウナハット、テントサウナ、熱波師…。

そんな流行に右往左往することなく、このサウナマイスター (自称) が本物のサウナ魂を見せてやる!

そして復帰第一戦はどうしても、ここ笠置いこいの館でなければならない理由があった。

ここには水風呂がない!

外気浴のスペースはある。が、水風呂がないのだ。

ワサビ抜きの握り寿司、マヨネーズ抜きの冷やし中華というのはどうだろう。すこし頼りないが食べられないことはない。しかし握り寿司抜きのワサビ、冷やし中華抜きのマヨネーズならいかがか。

水風呂のないサウナとは、つまりそういうことだ。

それは握り寿司抜きのワサビ。ただのワサビチューブ。

その高いハードルにわたしは挑むのだ。

わたしは覚えのある道を進んでいった。

あの角を曲がり、それから直進して…、

口にくわえたワサビチューブを吸いつくす覚悟はできていた。

カーブを過ぎると、広い駐車場が見えてくる。

もうすぐだった。

 

 

(追記) 天然温泉・笠置いこいの館は温浴施設 (風呂、サウナ) 、食堂施設の営業を令和元年9月1日より休止中です。