小さな旅のはなし

家を出て、川沿いの桜並木を眺めながらのんびりと歩いてみた。

そこにいたるわずか10分ほどの間にも、途中にタバコ休憩をはさむ。それでいい。なにも急ぐことはない。それに、わたしにとって気負いなく出かけられるのは、いまはまだこの辺りくらいなものだ。雑踏にまぎれるのは気が進まない。

この二年間、わたしたちはいつも伏し目がちになり、たがいをけん制しあって、それを気取(けど)られぬためでもなかろうが、大きなマスクをつけて顔の半分を隠してすごしてきた。

疑心暗鬼、沈黙、楽観、噂話…。

わたしが恐れるのは、ウイルスばかりではない。ヒトこそが、わたしの恐れるものかもしれない。

f:id:ma2no_z32:20220402235816j:plain

満開の桜の下で

すぐそばの児童公園で、散る桜の花びらを受けながら弁当をひろげる家族連れ。かれらが笑顔でいてくれたのが、わたしにはたまらなくうれしかった。

どの木も見事な枝ぶりで、まわりに日陰をくれている。

重く垂れさがり、川面(かわも)に届こうとしている枝が何本もあった。

f:id:ma2no_z32:20220403001717j:plain

小さな子供を連れた若い母親。その子が落ちた花びらを拾い集めるのを、目を細めて見守っている。

無言で写真を撮り続ける若者。かれは半ズボンすがただった。いくらなんでも、何故だろう。

f:id:ma2no_z32:20220403003120j:plain

f:id:ma2no_z32:20220403003156j:plain

この桜並木の下には、なにか、わたしが欲しかったものが確かにあったような気がする。

それが正解なのか、何であるのか、わたしには知る由もなかった。

顕宗天皇陵をのぞんで

桜並木の途切れるころ、バイパスの向こうに見える顕宗天皇陵に、人影はなかった。

敷き詰められた玉砂利が、陽だまりを受けるばかりで、静まり返っていた。

f:id:ma2no_z32:20220403005450j:plain

御陵(みささぎ)のうえには、小さな雲が浮かんでいた。

f:id:ma2no_z32:20220403005737j:plain

いま、わたしのこころを慰めてくれるのは、そして自信に満ちて語れるのは、こんな小さな旅のはなし。