【大阪市住吉区】止止呂支比賣命神社、そうだトトロに会いに行こう!

となりのトトロが好きだ。

メイとサツキはお父さんに連れられて田舎の一軒家に引っ越してくる。そこには「まっくろくろすけ」というまりものようなススのお化けが住みついていて、空き家を好むかれらは一家がやってくると、その夜、次の居場所をもとめて空へといっせいに舞い上がっていく。

観るもの誰もが、この冒頭から異世界へとごく自然に誘われていく。

 

トトロに会いに行こう!

止止呂支比賣命神社の名前を自宅の書斎ではじめて本のなかで目にしたとき、わたしは思わずにやけてしまった。「トトロだ!」

しかし残念ながらトトロではなく、すぐに「とどろきひめみことじんじゃ」と読むのだと知れたわけだが、以来、いちどゆっくりと時間をかけて、そのお社を参拝してみたいとずっと思い続けていた。こじつけ、思い込みでもかまわないから、境内のどこかにトトロにゆかりのものを見つけたくて。

 

わたしが不思議に思うのは、そこがとなりのトトロのファンやジブリの信奉者たちから、聖地として崇められているようすがまったくないことだった。トトロと関連づけて語られた様子もない。

新しい映画やアニメが公開されると、名前が似ている等の理由から、特定の神社に聖地巡礼よろしく多くのファンが押し寄せてきて、にぎわうことがよくある。

たとえば奈良県葛城市の葛城坐火雷神社は、鬼滅の刃のファンのあいだで聖地とされている。火雷神という技が作品中に登場する理由による。

そして秋深まる先日、ついに念願かなって止止呂支比賣命神社をたずねることができた。

 

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大和川をこえた。

そのままあべの筋を北にすすみ、南海高野線の踏切をこえると、左手すぐのところに止止呂支比賣命神社の豊かな杜 (もり) が見えた。

大阪の都心にほど近いところに、これほどの緑があることにまず驚かされる。

駐車場の案内板が見えた。

ほかにクルマはなかったので、好きなところにとめることができた。

朱色があざやかな本殿はまだ真新しい印象をうけたが、拝殿のほうは歴史を感じさせるどっしりとした風格があった。住吉造り。

素戔嗚尊稲田姫尊、止止呂支比賣命の三柱をおまつりしている。

古くは住吉大社奥の院 (境外摂社) であったとされているが、創建年をはじめ不明な点も多い。

神社名にしても、稲田姫をトドロキヒメと呼んだことに由来するという説や、境内を流れていた小川の音がとどろいたから、あるいはその小川にかかっていた橋の名前から採ったなど諸説ある。

それにたいして、ここが若松神社の別称で呼ばれるようになったいわれのほうは、はっきりと知られている。

十一世紀、承久の乱の緒のときになる。

承久三年、後鳥羽上皇が倒幕の兵を集めるため、熊野詣を装い墨江の里に行幸される際に、この神社にひろがる松林のなかに若松御所を造営し行宮とされて、国家安泰武運長久を祈らせた。

そのことから、ここは若松神社の別称でよばれるようになったという。

行宮祉のすぐうしろを南海電車がはしる。

神々の集う杜 (もり) を歩いて

境内にある稲荷社。

狐がたくさんいた。

境内摂社の天水分豊浦命神社 (あめのみくまりとようらのみことじんじゃ・別名 霰松原荒神社) は元は近くの安立町に鎮座されていたものを、明治四十年、当地に移されたもの。

天水分神、澳津彦神 (おきつひこのかみ)、澳津姫神 (おきつひめのかみ) 、三座の祭神を竈神 (かまどがみ) としておまつりしている。

境内はことごとく清浄な気で満ちていた。


そして、そのいずれもが御神木と呼ばれるにふさわしい見事な巨木が、鎮守の杜をつくっていた。

となりのトトロに登場したクスノキの御神木の根っこにそっくりなものもあった。もっともサイズ感はまったく違うわけだが。

御神木にあらわれた蛇をおまつりしている黒長社。

授与所でお守りを頂戴した。

ただ一文字「止」とあるのが、なんだかおかしかった。

あらゆる悪い流れを「止」めて、運気を好転させるという。

拝殿のまえに、地下水が湧き出ていた。

この水は、むかしこの境内に流れていたという小川とおなじ水脈ということになるのだろうか。

「願いの御神水」と名づけられたそこに願い事を書いた神札を浮かべると、願いがかなうという。

わたしはさっそく神札に向き合った。

しかし、いっこうに手が動かない。そしてはたと思いいたった。

願い事なんてなにひとつないぞ…。

自分はけっこう恵まれているんだな。

これはうれしい気づきだった。

 

うわあ、願いがなにもないなんて気取ったヒト、ちょっと苦手かも。

うーん。

しかしせっかくだからと「大金かくとく」とかいてみた。獲得の漢字がとっさに出てこなくて、ひらかななあたり、あまりに悲しすぎた。

神札はすぐに水に溶けると説明を受けていたのだが、これがなかなか溶けなかった。

まわりに誰もいなかったからよかったものの、もしも他人に「大金かくとく」を見られていたらと思うと、冷や汗ものだ。

いっきに日がかげり、暗くなった。

わたしはもちろん承知していた。

空へとのぼっていった、まっくろくろすけの大群が太陽を隠したのではないことくらいは。